現実逃避5.0

覆水盆に返らず

胡桃に酒 細川ガラシャ

印象に残っている小説があります。司馬遼太郎の「胡桃に酒」という短編です。この物語は、絶世の美女として名高い細川ガラシャと、その夫・細川忠興(ただおき)を中心とする群像劇です。明智光秀の娘、細川ガラシャは、ガラシャという洗礼名からも解る通り信仰厚い耶蘇(キリスト教徒)であり、夫の忠興は、利休七哲にも数えられる文化人です。胡桃と酒は食べ合わせが悪い組み合わせなのだそうで、物語は、はじめから様々な人の思惑を孕んで、破局へ突き進んでゆきます。この短編の印象が強烈なのは、まともな人間が一人も出てこないことです。ガラシャの信仰心は、全てをなげうつほど狂信的なものでした。しかし物語は、ガラシャと周囲の人々という対立構図をとりません。なぜなら登場人物は全員狂っているからです。

この小説は、司馬遼太郎の他の作品のように説明くさくないのですが、それでいながら宗教の本質、人間の本質にせまる迫力があったと思います。短編集『故郷忘じがたく候』に収録されています。

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内田青虹作細川ガラシャ

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 手裏剣

お題「我が家の本棚」