現実逃避5.0

覆水盆に返らず

漁村の怪人

網元(あみもと)

船舶・魚網などを所有し、多数の漁夫を雇用して網漁業を営む者。網主。⇔網子

広辞苑

  その静かな漁師町の駅では、乗り降りする客も少ない。さびれた駅前広場の、不釣り合いに豪華な旅館だけが、往時の賑わいを忍ばせている。旅館の経営者は、数年前に新しい男に変わったらしい。網元と呼ばれるその男を、町で知らぬものはない。男は昭和のにしん漁が盛んだった頃、町にやってきて、漁師から身を立てた。

 最近、町に不穏な噂がある。旅館の宿泊客が、ぽつりぽつりと行方不明になるらしい。代々旅館を引き継いできた先代の経営者は、町の名士だった。町長選挙にも出たのだが、開票日の前日、急死した。その晩は、網元と二人で呑んでいたらしい。不審な事件が増え始めたのは、ちょうどその頃からだとか。

別のプランとしては、若い漁師が岩場の影で尻を押さえて泣いていたというのもある。

 

そんなことを考えたのは 昔、海岸線を走る列車に乗っていた時、

「お降りのお客様は、網元にご注意下さい。」と車内アナウンスが言ったからだ。

足元にご注意下さいの聞き間違いだった。

日の出前の車窓に漁り火が見えた。

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今週のお題「外のことがわからない」