ご無沙汰しております。北海道の続きです。
この日は天気がすぐれず、旭岳を後回しにして、ばんえい競馬を見に帯広へ向かった。そりを引く輓馬(ばんば)がレースを行う競馬場は、世界中で帯広だけだなのだそうだ。
帯広駅に降り立ち、人のまばらな駅前ロータリーで、私はひとまずワンカップ大関の空き瓶を探した。競馬場と名のつくところへは、道々落ちているワンカップの空き瓶を目印に辿っていけば着ける。
それはさておき地図を頼りに見知らぬ街を歩くこと30分。
酪農の匂いがしてきたかと思うと、潰れたショッピングモールを思わせる建物が現れて、それが帯広競馬場だった。実際に経営難から何度か廃止が取りざたされているという競馬場には、小さな食べ物屋街の他に、輓馬の資料館と、馬やなぜか兎とふれあえるスペースが併設されており、この日も園児の集団がバスで来ていた。
開場時間が近づくと、食べ物屋街も賑わってきた。マイワンカップを開けているひとも多い。
2時開場。入場券100円は1年間有効という。
人と馬の心がふれあうばんえい競馬。夕焼けに染まる厩舎で飼育員の手からにんじんをほおばる輓馬。朝一番早い時間帯のNHKで流れている変な番組が形成した私の帯広競馬の牧歌的イメージは、開場とともに馬券売り場に殺到する常連客の手つきの音速さにより雲散霧消した。
馬券の買い方から教えてくれるビギナーズコーナーには観光客しかいないようだ。係員の勧めるまま的中率の高い連勝複式の馬券を買ってスタンドへ出た。スタンドから見える200メートルの直線コースには、盛り土で高くなった部分が2つある。この坂を輓馬が重たいそりを引いて越えるところが文字通りの山場であるそうだ。
アナウンスが開場に流れたら、初見のレースはいつのまにか始まっていた。
走り始めた全ての馬が、一つ目の山の前で止まった。そのままかなり長い時間止まって、心の整理をしてから登るようだ。これが2箇所ある。だいぶ想像と違う。
レースは1,2着が決まって、私の馬券は恙なく紙切れになった。
いく人かの観客が席を立っても、私の、もと馬券に書かれた馬は、まだコース中程の山の前でぐずついている。
執拗にムチを浴びながらいやいや進みだした馬を見て、かわいそうだと思った。私の業の深さを確認した帯広だった。
(森脇健児)