鹿よ、安らかに。

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「電車が鹿に衝突して遅延した。」

 


嘘かまことか、今朝、職場に遅刻した人の弁。

 

東京でも外れなら、そんなことがあるのか・・・。

 

ローカル線の旅ならば、鹿の特攻は日常茶飯事である。

 

あれは北海道の旅。

網走発、釧網本線の列車は、
夏休みの観光客を乗せ、オホーツクの、

もの悲しげな夕闇をひた走っていた。

 

突然の急制動

 

次の瞬間だった。

 

ゴッ

 トン

 

レールのジョイントとは明らかに違う、

何かを車輪が踏み越えた衝撃が、座席から乗客全員の尻に伝わった。

 

学生も、お喋りの中国人ファミリーもみな、一様に固唾をのんだ。

少しして車掌が運転席の方に走っていった。

 

静寂が車内を支配して、10分もした頃、ようやくの車内アナウンス。

鹿との衝突であるという。

 

鹿と列車の衝突ならば、じつは、私にとっては、2日連続になる。

昨日、石北本線にも鹿がぶつかり、20分程立ち往生をした。

 

だが、昨日とは何かが違う。

ぶつかり方が、まず明らかに違う。昨日は少なくとも、

乗り上げるような衝撃は無かった。ぶつかったモノは、同じなのか?

 

今、車掌が前の貫通扉から降りて、何らかの処置をしているらしい

それは昨日と同じだ。

 

車内アナウンスは、「鹿を轢いた。現在安全確認をしている」 という、

同じ内容を微妙に表現を変えて繰り返している。

動揺しているのではないか?

「鹿を轢いた」と、やけに言う

 

車掌が戻ってきた。もう45分以上経っている。

顔面蒼白で血なまぐさい袋を抱えていた。

 

 

列車が動くまで、そこからさらに時間を要した。

ようやく口を開いた観光客たちだが、

この1時間の出来事を語る者は1人もいなかった。

 

 

あの背筋の凍るような衝撃を、皆、忘れたがっている。

 

 

 夜の帳が降りた道東の車窓には、一点の明かりもなかった。

 

網走監獄を観光したせいで、私は今日思考が偏っているようだ。

塀の外では、人は簡単に死なない。

頭を振って雑念を追いだそう。

 

 

そうだ、あれは

 

 

鹿だ。